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大人な二人の恋愛端

 

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●登場人物

♀理沙  29歳 男性思考よりのサッパリ系働く女子

♂健一  35歳 飄々とした掴みどころのない理沙の男友達

 

●場面:

居酒屋で男女二人が並んで座っている。

女は少々お怒り気味な様子であり、なかなかのピッチでお酒を飲み進め、

男はグラスを片手に口元に軽く笑みを浮かべながら聞いている。

 

●役表

♀理沙 : 

♂健一 : 

 

所要時間 : 20分

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理沙:そもそも、30になるからって自分の中の何が変わるの?って思う。

 

健一:んー?

 

理沙:そりゃ…さすがに20代前半のような無鉄砲さとか、目に見える若さはないわよ?

   その上、大人としての責任というか、税金だの親の面倒だの、この先の自分のこととか…

   簡単には言えないような重苦しい責任が色々と付きまとってくる。

   それはわかってるし、覚悟もできてる。

 

健一:ふむ…。

 

理沙:でも、マスコミで取り上げられる、いわゆる「独身のアラサー女」っていうのは、

   やれ負け犬がどうとか、婚活がどうとか…恋愛ありきなとこに納得がいかない。

   なんで旦那や彼氏がいないと欠陥があるみたいな言い方されなきゃいけないの?

   なんで恋してないイコール干物女なの? 結局アレよね。

   いつまでたっても「女は結婚してナンボ」っていう封建的な考えが抜けてないってことよね。

   もしくは、ネタがないマスコミにこぞって躍らされているだけ!

 

健一:仮にもマスコミ業界にいる君がソレを言うのが面白いね。

 

理沙:(健一を一睨みして咳払いしつつ)そりゃ・・・そっち系の話が気にならないわけじゃないわよ?

   確かに世のニーズにあってるわよね。

   なんだかんだ言っても、ある一定の年齢になれば嫌でも意識させられるし。

 

健一:あぁ、仲間内で一人結婚すると、連鎖反応起こるもんな。理沙も今そんな感じか?

 

理沙:…そうね。確かに、結婚願望がない私だって、人の結婚式見てるとなんとなく羨ましくはなるし?

   純白のウエディングドレスとか、単純に憧れはあるけど。

   でもね、それがイコール結婚願望に繋がるかって言ったらそうでもないと思うわけ。 

 

健一:そうだな。特に男にとっちゃ女性のそういう感覚は正直よくわからない。

 

理沙:でしょ!? あ、でも誤解しないでね。別に私は「結婚しない」って決めてるわけじゃないのよ?

 

健一:へぇ?

 

理沙:だって、結婚て相手がいて初めて考えられるものじゃない?

   相手もいない内から結婚を夢に見てるっていう行為自体がすごく不自然に感じるだけ。

   あとはそうね・・・虚しいこというけど、別に私一人でも生きていける気がするのよね。

 

健一:そうか…。理沙は大変な覚悟をしてるんだなぁ。いやはやすごいもんだ。

 

理沙:…は? なんで?

 

健一:だってそうだろ? 一人で生きていける…なんて、大人の男でもなかなか言い切れないよ。

   単純にさ、男とか女とか関係なく、一人で生きていくことって大変じゃないか?

   金のことはさておき、老後とか、考えなきゃいけないことは山ほどあるだろ?

   誰と分かち合うこともなく、すがれない。

   友達がいるって言っても、実際十年単位で付き合えるやつらって何人いるよ。

   そんな一握りの存在すら、所帯持ったら否が応でもそっちを優先するだろうし。

   ついでに老人になって、「いざ具合悪くなった。助けてー」っていっても、

   同じ老人じゃ「逆にこっちが助けてくれ」って言われるかもしれないしな。ハハ。

 

理沙:……。ちょっと、分かっててそういうこと言わないでよ。

   さっきも言ったけど、別に一人で生きていきたいわけじゃないの!

   そうなったらそうなった時で、実際はなんとかなるだろうっていう物の喩え!!

 

健一:ハハ、悪い悪い、お前のその何ともいえない怒った時の顔が好きでさ。

 

理沙:またそうやって適当なことばっか言って…とにかく!

   私が言いたいのは、後々そういう苦労が目に見えていたとしてもよ?

   生活云々を気にして結婚っていう打算的な考え方はしたくないし、

   結婚自体にそこまで夢見たくないの。

   でもそれを、「所詮負け犬の遠吠えだ」とかバカにされるのがガマンできないのよ! わかる?

   「あーあなたモテないんですねぇ。だからそんな悟りを開いちゃってるんですねぇプププー」

   っていう奴等のあの得意そうな顔! 私からすればアンタらのオツムの方が可哀想だわ!

   あ~もうほんと、あったまくる!!!!!

 

健一:なんだ、誰かに何か言われたのか?

 

理沙:…そうね。でもそれだけじゃない。色々グチャグチャなのよ…頭の中……。

 

健一:ふーん。何かあったのか?

 

理沙:…別に、いいの。

 

健一:そう? ま、言いたくないならいいんだ。でもさ、結婚に夢を見るってのも悪くないと思うぜ。

   適当に夢見て結婚して、現実と刷り合わせていけばいいだけさ。

 

理沙:…でもその刷り合わせが上手くいかなかったら?

 

健一:そりゃ…離婚?

    

理沙:はぁ・・・。だから、そうやってすぐ離婚ていうのも私には考えられないの。

   どうせそうなるなら、初めから関わりたくない。面倒くさい。

 

健一:ほう。ま、それはそれとして…。

   何があったかは知らないけどさ、とりあえずこういうの向かないんだから、あんまり無理すんなよ。

 

理沙:こういうのって…一人でお酒飲んでたこと?

 

健一:そう。どうせ今日みたく後から寂しくなって、飲み仲間を探してはみるものの…

 

理沙:相手として浮かぶのは健一くらい…か。

 

健一:俺が残念なものみたいな言い方するなよ。ま、理沙はなんだかんだ言って気ぃ遣いだからな。

 

理沙:…。

 

健一:今日は俺が来れたからいいけど、女一人で酒飲んでもあんまいいことない気がするからさ。

   特にお前みたいなタイプは。

 

理沙:うん…心配してくれて、ありがとう。

 

健一:(軽く笑って) うん。

 

理沙:…あ! 今日は私が奢るから。遠慮しないで飲んで!

 

健一:いいよ。さすがに女性に奢らせるほど困ってない。

 

理沙:分かってるわよ。でも、たまにはいいじゃない。

   私だって日頃の感謝をこういう形で伝えたいときもあるの。

 

健一:なるほどね…しかし本当に損な性分だな。

   適当に男を持ち上げて、可愛げを出せば得することだってある。わかっていながらできないとはね。

 

理沙:そんなところで得を求めてないからいいの。

 

健一:うん、そうだな。まぁ俺は、そんなところも可愛いと思うけどね。

 

理沙:…ほう、年上男の余裕というやつですか。

 

健一:男もこの年までくれば、それなりに成長するもんなんだよ。

   20代の頃みたく、若くて可愛い女だけがすべて…って気にはならないからな。さすがに。

 

理沙:ふーん? そんなもん?

 

健一:そりゃ若くて可愛いにこしたことないけど。

 

理沙:はいはい、そうですかー。どうせ私は、ヤケ酒煽るような可愛さのカケラもないダメ女ですよーだっ!

 

健一:ダメ女っていうか、おっさん?

 

理沙:うるさい! …でもさぁ本当、最近しみじみ思うんだよね。

   愛とか恋とか、自分にとって一体なんなんだろうなーって。

   恋に夢見る年でもないし、かといって現実はこう、って割り切ることもできないし…中途半端なの。

 

健一:理想が高いからな。

 

理沙:そんなことないわよ。

 

健一:いいや高いね。間違いない。

 

理沙:そうかなぁ。

 

健一:そうだよ。前ちょっといい感じになってた奴、なんだっけ…アレ結局振っちゃったんだろ?

 

理沙:あぁマサト君?

 

健一:年下可愛いとか、相性良いとか言ってたよな。

 

理沙:だって、なんか…甘えられるの好きじゃないんだもん。

 

健一:なんだそれ。男は常にかっこよくなきゃイヤ。泣き言いうなってことか? 

 

理沙:違うわよ。なんていうか…可愛いんだけど甘やかし過ぎちゃって。

   うまく自分の中でバランスが掴めないの。

   甘やかしてる自分にも、それに甘えきりの相手にも嫌気がさして…。

   『お前にしかこんな自分見せられない』なんて言われても、ちっとも嬉しくないっていうか…。  

 

健一:「私はあなたのママじゃないのよ」ってやつか。

 

理沙:どうかな。なんか矛盾を感じてイライラしちゃうのよね…。

   だってそんなこと言いつつ「おい、お前」とか呼びつけたり、何かと上から目線で偉そうなのよ?

   こっちからしてみたら意味わかんない。

   男のプライドだかなんだか知らないけど、甘えたいのか甘えられたいのかどっちかにして欲しいわ。

 

健一:そりゃまた手厳しい…。でも、理沙だってそういうときあるだろ? 

 

理沙:どういうとき?

 

健一:彼氏に甘えているときと、夢中になって仕事バリバリこなしているとき。

   そこにギャップはないのか? まぁ「ない」って言われてもそれはそれでどうかと思うけどな。

 

理沙:そういうのと一緒にしないでよ。全然違うわよ。

   …そもそもね、これが年上の人だったら問題なかったと思う。

   逆に弱いとこ見せて貰えるて嬉しく感じてたと思う。

 

健一:そんなもんかねぇ。ま、要するにアレだな。理沙に年下は合わなかったってことか。

 

理沙:ふん、どうせ「オマエがガキだから、ガキがガキの面倒みられるわけない」って言いたいんでしょ?

 

健一:そんなことは考えてない。歯車が噛み合わなかったんだろうなーって考えてただけ。

 

理沙:歯車?

 

健一:どんなに他の条件がよくても、たった一つの譲れない条件で別れるカップルなんて

   星の数ほどいるだろ? 男と女なんて歯車みたいなもんでさ、多少ブレがあっても、

   回り続けることができれば成立する。けど、他が寸分の狂いなくかみ合っても、

   一つ大きな凹凸があれば、そこで歯車は回ることができなくなる。

 

理沙:あーなるほどね…。そっか。私の歯車は、「年下」に大してシビアな形をしているのね。きっと。

   

健一:かもね。まぁもちろん、歯車を相手と噛み合うように修正していけば問題ないだろうけど…

 

理沙:無理。イヤ。

 

健一:そういうこと。ガキ云々じゃなく、そこはもう人としての考え方、個性だよ。

 

理沙:…なるほどね。私、健一のそういうとこ好き。

   軽口ばっかのようで、ちゃんと話を聞いてくれてるとこ。

   その上で言葉を選びつつ、なんでもサラッと受け止めてくれるとこ。

 

健一:なんだ急に(笑)。理沙の口からそんな言葉が出るなんて…悪いことの前触れじゃなきゃいいが。

 

理沙:失礼ね、いつもちゃんと思ってるわよ。そういうところには、年上の包容力みたいなものを感じる。

 

健一:それは良かった。ただの年食ったおっさん、とは見られてないようで嬉しいね。

 

理沙:バカね(笑)。

 

健一:まぁ自分のやりたいようにやればいいんだよ、理沙は。

   どちらかと言えば保守的なんだし、他人からなんと言われようと間違ったことはしないだろ。

   そういった面では心配してない。逆に「もっと遊べばいいのに」って思うこともある。

 

理沙:…自分でもそう思う。

 

健一:じゃー遊べば?

 

理沙:それが出来たら苦労しない。

 

健一:何がそんなに引っかかってるわけ?

   俺がフリーの時は、その年ごとに、それなりに遊んできたけどな。

 

理沙:へー例えば?

 

健一:そりゃまぁ…色々と?

 

理沙:…なるほど。ただのろくでなしか。

 

健一:おいおい酷い言われようだな。でも多少の無茶はしてきたかもな。それなりに後悔もしたし。

   でもその分、真面目一直線で生きてきて、取り返しの付かない所で無茶するような男よりは

   マシだと思わないか? 自分の限界を知ってるから線引きも完璧。

 

理沙:都合の良い理屈ですこと。

 

健一:あはは。やっぱり?

 

理沙:そうよ。…でも、一理あるかも。この年になると余計に感じるのよね。

   純粋だったりマジメすぎる子って怖くなる。

   いつか裏切られるんじゃないかとか、私が穢れすぎてて、相手を汚してしまうんじゃないか、とか。

 

健一:そんなに場数踏んでるわけでもないだろう、理沙は。

 

理沙:そうだけど…。

 

健一:すべてにおいて頭でっかちだな。石橋を叩いて自ら砕いてんじゃないのか?

 

理沙:…先を考えずにはいられないのよ。

 

健一:怖がり。

 

理沙:わかってるわよ!

 

健一:ハハ。でもな、みんなそんなもんだよ。大人になるほどズルくもなる。

 

理沙:…健一も?

 

健一:そうだな。俺はお前より年食ってる分、余計に臆病だ。

 

理沙:そうは見えないけどな。なんでも自信持ってて、仕事もプライベートもスマートな感じ。

 

健一:女の扱いにも慣れてる?

 

理沙:そうね! 少なくとも私よりはね! まったく何人の女を泣かせてきたんだか。

 

健一:何を仰る。それこそスマートですよ、俺は。後腐れなく、円満な出会いと別れを…

 

理沙:最低男。

 

健一:俺も男ですから。でも好きな女には一途だよ。簡単に誘えもしないし手も出せない。

 

理沙:うそ。

 

健一:ほんと。つい相手の出方を伺って、踏み込めない。なんでもない女なら簡単に口説けるのにな。

   大切だから、失うのが怖くて言葉が出ない。

 

理沙:そっか…健一でもそうなんだね…。

 

健一:でも、当たり前のことだけどさ、本当に手に入れたなら、どこかで勇気を出さなきゃいけないんだ。

 

理沙:うん…。

 

健一:だからさ、俺にしとけよ。

 

理沙:……は?

 

健一:適度に遊んでて、落ち着いてて包容力もある。理想の男じゃないか?

 

理沙:え?

 

健一:他の男の話に相槌打って慰めるより、お前が安心できて幸せになれる場所を

   俺が作ってやりたいって思ってる。

 

理沙:ちょっと待って。何?

 

健一:お前以外、もう興味ないんだ。

 

理沙:……。

 

健一:……と、まぁ、パッと思いつく感じで言うとこんな感じかな。

 

理沙:……は?

 

健一:いや、俺が女口説く時の軽口。

 

理沙:…~~あんたねぇ、人脅かすのも大概にしなさいよ!? このタイミングでそんなことする!?

   普通じゃ考えられない、神経疑うわよ!!!!

 

健一:ビックリした?

 

理沙:したわよ!! 突然何っ…て、あーもう! 私のドキドキ返せ!!!

 

健一:へー。ドキドキしたんだ?

 

理沙:うるさいわね! あんたに真顔であんなこと言われたら誰だって…

 

健一:今更。第一、対象外の男にそんなこと言われて動揺するような理沙じゃないだろ?

 

理沙:た、対象外だって、友達にいきなりそんなこと言われたら、こうなるわよ!

   あんた自分の武器知ってて、本当タチが悪い!

 

健一:あは、ごめんごめん。

 

理沙:まったく、次やったら本気で怒るからね! …はぁ。

 

(視線をそらした理沙の目に、店の時計がうつる)

 

理沙:って、もうこんな時間かぁ。そろそろ帰ろ……

 

健一:(被さるように)でも理沙、誤解してない?

 

理沙:…何が?

 

健一:俺確かに「軽口」とは言ったけど、嘘とは言ってないよ?

 

理沙:……。

 

健一:ん?

 

理沙:もう、騙されないわよ。そんなに何度も引っかからない!

 

健一:そうなの?

 

理沙:そうよ!

 

健一:それは残念。

 

理沙:~~~こいつはぁ!!

 

(コートとバッグを持ち、椅子から立ち上がろうとする理沙の腕を取る健一)

 

健一:軽口は好みじゃなかったか…なら仕方ない。お姫様に伝わるまで、ゆっくり口説くことにするよ。

   あーあ、数年ひっそりと抱えてきた臆病な大人の本音を洗いざらい語らせようとは。

   まったく、タチが悪いのはどちらだろうね?

 

理沙:……間違いなく、あなただわ。

 

 

END

 

 

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