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silly talk

 

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●役表

 マサト:
 アカネ:

所要時間:15~20分

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アカネM アパートの部屋の前で立ち止まった。
     扉から微かに漏れ聞こえる音……。
     私より帰宅の早い彼が、2人分のご飯を作っているのだろう。
     このアパートに引っ越してきたばかりの頃は、それがどれだけ嬉しかったか……。
     私の帰りを待っててくれる人がいる、温かいご飯まで作ってくれている。
     今日だってきっと、笑顔で出迎えて「お帰り」を言ってくれる……でも。
     時の流れは人を欲張りにさせる。
     私は今日、8年付き合った恋人にサヨナラを言うのだ。

アカネ  (深呼吸)……よし。

(アカネ玄関を開けて入る)

アカネ  ……ただいま。

マサト  お帰りー。外、寒かっただろ? もうすぐご飯できるから、先着替えてきなよ。

 

アカネ  うん。

 

マサト  今日は身も心も温まるおでんだ! アカネの好きな餅巾着も入れてあるからな!

 

アカネ  ありがとう……あ、あのさ。

 

マサト  ちくわぶも大きめに切って入れてあるよ? 煮込んだから味も染みてるし。

 

アカネ  あ、ありがとう。……いや、そうじゃなくて。

 

マサト  あ~大根? 今日はちゃんと面取りして、下茹でアク取りもバッチリ!

 

アカネ  違う。

 

マサト  じゃアレか、玉子! お前ラーメンの煮玉子好きなのにおでんの玉子嫌いだからな。

 

アカネ  おでんだと黄身が固くて…ってだから違うの! おでんの話じゃない。

 

マサト  なんだよそんな眉間にしわ寄せて。あっ! もしかしてお昼もおでん食べたとか……

 

アカネ  (被せるように)違うから! いいから少し黙って!

 

マサト  はい。

 

アカネ  ……あのね、大切な話があるの。凄く悩んで、迷って、考え抜いたことなの。

 

マサト  ……。

 

アカネ  だからもう、何を言われても、この気持ちを変える気はない。

 

マサト  ……。

 

アカネ  ……聞いてる?

 

マサト  聞いてるよ。アカネが黙れって言うから黙ってたの。

 

アカネ  相槌位はしなさいよ!……はぁ、もういいや。結論言うね。

 

マサト  はい。

 

アカネ  私、マサトと別れる。

 

マサト  へぇ。

 

アカネ  もう続けていく自信がない。

 

マサト  ほう。

 

アカネ  来週にはこのアパートも出て行くから。

 

マサト  ……ん?

 

アカネ  家財道具についてはとりあえず保留で。落ち着いたら相談しよう。

 

マサト  え、いや、ちょっと待って。

 

アカネ  何?

 

マサト  『ワカレル』って、何?

 

アカネ  言葉の通りです。

 

マサト  『ワカレル……』あー最寄駅の話? 確かにアカネの職場は私鉄で行った方が近いもんな! 朝は別々に通勤かあ。

 

アカネ  違う。

 

マサト  じゃあこないだ買ったゲーム? 確かにチーム分けして対戦しても面白いけど、お前負けても泣くなよ?

 

アカネ  違うし、負けて駄々こねるのはいつもそっち。

 

マサト  あーあれか! 今度あるとかいう地域の……

 

アカネ  (被せるように)マサト。

 

マサト  ……。

 

アカネ  わかってるでしょ。

 

マサト  ……。

 

アカネ  ……。

 

マサト  ……わからない。

 

アカネ  え?

 

マサト  わからないよ。なんで? 今朝までそんな素振りもなかったのに。俺何かした? 普段通りにしてただけだよね?

 

アカネ  そうね。

 

マサト  全然わからない。いきなり『絶対別れます、反対意見は認めません』って、俺たちその程度の関係だった?

 

アカネ  違う。違うけど……。

 

マサト  じゃあなんだよ。何が変わったの? そんなにおでん嫌なら捨てるから!

 

アカネ  いや、おでん関係ないから。

 

マサト  あ、そう?

 

アカネ  ……。

 

マサト  ……。

 

アカネ  ……。

 

マサト  で? どうしてそういう結論になったの。

 

アカネ  ……。

 

マサト  ん?

 

アカネ  ……(小声で)そういう。

 

マサト  なんて?

 

アカネ  (何かをふりきるようにため息をついて)……ずっとね、考えてたの。

 

マサト  ずっと?

 

アカネ  うん。漠然とした不安を感じだしたのは2年くらい前かな。お互い社会人になって、やっと仕事にも慣れて一息ついたとき。

 

マサト  その時、何かしたのか?

 

アカネ  ううん、してない。何も。

 

マサト  どういうこと?

 

アカネ  何もしてないし、何も言ってない。そして、何も行動する気がないってことに、少しだけ不安を感じたの。

 

マサト  ……あーそういうこと。オレが二人の将来について何も考えてないって心配になったのか。

 

アカネ  ……。

 

マサト  バカだな。なんでそういうことを先に言わないわけ? オレが何も考えてないって勝手に決めつけて。 これでもちゃんと考えてるよ。

 

アカネ  たとえば?

 

マサト  クリスマスに婚約指輪を渡してプロポーズとか。

 

アカネ  用意してくれてたの?

 

マサト  いや。

 

アカネ  は?

 

マサト  まだ計画段階だから。

 

アカネ  明日なのに?

 

マサト  計画の実行は今年ではないかもしれない。

 

アカネ  (ため息)

 

マサト  いやでも本当に考えてるから。心配すんなって。

 

アカネ  何を考えてるって?

 

マサト  いや、指輪は無理だけど、2人の今後のことはちゃんとーー

 

アカネ  (被せるように)そういうのが無理なの!! 口ばっかり! 適当に言葉並べてもうたくさん!

 

マサト  アカネ?

 

アカネ    私、ずっと我慢してた。でも……もう、だめ。

 

マサト  ……。

 

アカネ  もう嫌なの、マサトに振り回されるのは。どうせ今も思いつきでしゃべってただけでしょ!?

 

マサト  そんなこと……

 

アカネ  ある!! さっきの指輪のくだり、2年前と1年前にも聞いてるんだから! てか、このやりとりも1年前にした!

 

マサト  マジか。

 

アカネ  マサト、私疲れたよ。確かに今までは待てた。マサトだって遊びたいだろうし、気持ちが落ち着くまで待とうって。でも、それももうやめる。

 

マサト  なんで?    8年も待ってくれたのに。

 

アカネ  言っていいの?

 

マサト  ……え?

 

アカネ  わかった、言う。

 

マサト  いや、ちょっと待って。

 

アカネ  何?

 

マサト  え……だって、怖いよ。急に何言われるのかと。

 

アカネ  なら言わない。

 

マサト  おう。

 

アカネ  それじゃ、出ていくから。

 

マサト  なんで!?

 

アカネ  だって、もう何も話すことはないし。理由聞きたくないんでしょ?

 

マサト  ……あぁもうわかった! 聞きます!

 

アカネ  そう? 私が別れたいと思った理由はーー

 

マサト  (アカネのセリフに対して食い気味に)ヒントからでお願いします!!

 

アカネ  ヒント?

 

マサト  ほら、いきなりは心臓に悪いだろ? 何事もちょっとずつ。ね? 俺が意外と繊細なの知ってるだろ?

 

アカネ  初耳だけど、わかった。

 

マサト  ありがとうございます。

 

アカネ  じゃーヒント1。それは2ヶ月前のことでした。

 

マサト  そんな前かぁ。思い出せるかな。

 

アカネ  ヒント2。場所は普段マサトが近寄ることすらない銀座。

 

マサト  なんだろうね、あの全部を否定されて、上から見下ろされてる感じが苦手なんだよ。貧乏人お断り! みたいな。

 

アカネ  ヒント3。私が行きたがっていたパティスリー。

 

マサト  パティスリー!? そんなこと言ってたっけ。

 

アカネ  ……ねぇ、ちゃんと考える気ある?

 

マサト  もちろん。

 

アカネ  この3つのヒントを聞いても何も思い出さないわけ?

 

マサト  いかんせん2ヶ月も前のことだしなぁ。あとちょっと、もう1つか2つでわかる気がする。

 

アカネ  『女』。

 

マサト  え?

 

アカネ  4つめのヒント、『女』。

 

マサト  女……。

 

アカネ  ……一緒に居たのは誰? 

 

マサト  ……あぁっ!?

 

アカネ  思い出しましたか?

 

マサト  アカ……おま、見てたの?

 

アカネ  えぇそれはもう。あれだけ銀座を毛嫌いしてかたくなに人の誘いを断っていたあなたが、これまた人が誘ってもにべもなく断っていたお店に、

      知らない女の人と仲良く入っていくところから見てました!

マサト  ところからって……その後も?

 

アカネ  全部言わせたいの? 私が食べたがっていたモンブランを「興味ない」って断ったあなたが「ここはモンブランが美味しいんだ」とか、

                 得意気に相手の分まで注文してたこととか!?

マサト  うわ恥ずかしい!! なんでお前そんなことまで知ってるんだよ!

アカネ  離れたところから唇の動きを読んだから。

 

マサト  読唇術!?

 

アカネ  とにかく! 思い当たることがあったようで何よりです。これで理由がわかったでしょ、満足した?

 

マサト  満足って……。確かにあの日、苦手な銀座に女の人と二人で、アカネに誘われて断った店に行って得意げにモンブラン頼みました。

      それは認めます! でも、重要なことを勘違いしている。

 

アカネ  何よ。

 

マサト  あの人は、お前が考えているような相手じゃない。

 

アカネ  じゃどういう人なの?

 

マサト  あの人は……俺の従妹だ。

 

アカネ  従妹?

 

マサト  そう。東京に出てきた従妹に、ちょっといいとこ見せたくて行ったんだ。お前のオススメなら女の子は喜ぶだろうと思って。

 

アカネ  へぇ…従妹ねぇ。じゃ聞くけど、従妹の女の子が『こないだはご馳走様でした♡ またお店にもきてね♡』

      なんてスタンプつきのメッセージ送ってくるの?

マサト  お前、勝手にスマホみたのか!?

 

アカネ  その日の夜「お腹痛い」ってトイレに駆け込んでる時、こたつの上に投げだされたスマホ画面に"勝手に"出てたの。

       しかもご丁寧に、アイコンが彼女の顔写真でしたから。

マサト  いやー慣れないもの食べるとお腹ゆるくなるよね~。

 

アカネ  で? 従妹?

 

マサト  ……従妹がね? お店勤めてて。

 

アカネ  へぇ。

 

マサト  ちょっとお酒飲んで、楽しくなれちゃうようなトコで……。

 

アカネ  ほう。

 

マサト  ……アカネちゃんは俺をどうしたいの!?

 

アカネ  だから別れるって言ってるでしょ。

 

マサト  それは嫌だ。

 

アカネ  子供!?

 

マサト  俺がキャバクラに行くのはそんなにダメか!

 

アカネ  開き直ったわね!? そもそも結婚資金貯めるとか調子のいいこと言ってクリスマスや誕生日プレゼントもナシにしたくせに、

      他所の女には貢いでるとか許せるわけないでしょ!?

マサト  貢いでない! 部長の奢りだから行ってるだけだ!

 

アカネ  同伴出勤分まで部長が出すわけないでしょ!! (ため息をついて)とにかく、もう疲れたの。

     一つ一つは小さなことでも、8年の間に蓄積されたもので身動きとれないの。1回全部リセットしたい。

 

マサト  嫌だ。リセットしたって絶対良いことにはならない。

 

アカネ  そうかもね。今日のことをすごく後悔して泣くかもしれない。

 

マサト  それなら……。

 

アカネ  でもね、別れないで苦しむのは3回目なの。

 

マサト  ……。

 

アカネ  いい加減、選択肢を変えないと前に進めない。 

 

マサト  ……。

 

アカネ  ごめんね、わがままなのはわかってる。でもマサトを恨みたくないから。

 

マサト  ……。

 

アカネ  今までありがとう。

 

マサト  ……。

 

アカネ  私が言えた義理じゃないけど、幸せになって。

 

マサト  ……。

 

アカネ  ……。

 

マサト  ……前に進めるよ。

 

アカネ  ……え?

 

マサト  RPGでずっと同じ選択肢選んだら、何度目かで新しい答えが返ってくるときもあるだろ。

 

(席を立ち、隣の部屋に行くマサト。少しして戻ってくると、その手には小箱がある)

 

マサト  本当は明日渡すつもりだったけど、計画通りにはいかないもんだな……。ん。(言いながらアカネに小箱を渡す)

 

アカネ  ……なに、これ。

 

マサト  見ればわかるでしょ。

 

アカネ  このお店、銀座に本店のある……。まさかあの時に?

 

マサト  見られてるとは思わなかったよ。確かにいくら流行りが分からないからって、別の女に頼むのはよくないよな。

 

アカネ  ……。

 

マサト  ごめん。カッコつかなくて。

 

アカネ  ……本気なの?

 

マサト  じゃなきゃそんなの、用意しているわけないだろ。

 

アカネ  信じていいの……?

 

マサト  まだ言うか。

 

アカネ  マサト……。

 

(嬉しそうに涙ぐんでマサトを見つめるアカネ。少し照れたように微笑みあう二人。視線を小箱に戻したアカネが、そっと小箱を開ける)

 

アカネ  ……え?

 

マサト  ん?

 

アカネ  ……空なんだけど。

 

マサト  あー……うん。

 

アカネ  は?

 

マサト  いや、もちろん中身も買おうとしたんだよ? でもよく考えたら指のサイズもわからないし、好みも人それぞれだろ?

     だからとりあえず箱だけ買ってみた。

アカネ  ……箱だけって売ってるの?

 

マサト  それね! 売ってたの。フリマアプリで! いや~便利な世の中になったもんだよね。

 

アカネ  銀座関係なくない?

 

マサト  まぁ、そうとも言うね。あ、本店の場所は教えてもらった!

 

アカネ  ……。

 

マサト  あれ?

 

アカネ  ……。

 

マサト  あー……もしかしてもしかすると……怒ってる?

 

アカネ  ……。

 

マサト  いや、でもさ! 一歩前には進んだと思わない?

 

アカネ  ……ない。

 

マサト  え?

 

アカネ  思わないって言ったのよ、このバカタレが! こんなもんで誤魔化されるか!!!

 

マサト  えぇ!?

 

アカネ  絶対許さない、信じた私がバカだった!!

 

マサト  でも指輪買う気持ちはあるから! それは本当だって!

 

アカネ  気持なんかいらないから現物よこせ!!このバカアァァ!!!

 

マサト  うわぁ、ご尤もです~!!!

 

(2人で息を整える)

アカネ  はぁ……。なんか本当に疲れた。このタイミングでこんなアホなことするのあんた位だよ……。

マサト  ありがとう。

アカネ  褒めてない。

マサト  まぁそれは置いといてさ、とりあえず明日指輪買いに行こう?

 

アカネ  ……それが嘘だったら、今度こそ本当に別れるから。

 

マサト  大丈夫だよ。結婚するならアカネがいい。これは間違いなくたった一つの、俺の本心だから。

     あ、でもあんまり高いのはナシね。

 

アカネ  ……バカ。はぁ、なんかお腹減ったな。仕方ないから、マサトが気合入れて作ったおでん食べようか!

 

マサト  あー……それね。本当はおでんじゃなくてトン汁なんだ。

 

アカネ  それも嘘かよ!!!

 

 


End

 

 


某診断メーカーより下記キーワード拝借しました。

<使用キーワード>
  ・たくさんの嘘とひとつの真実
  ・一緒に居たのは誰?
  ・もう、だめ。
  ・クリスマス

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