酔い事 - よいごと -
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●登場人物
♂ママ 年齢不詳。ゲイバー『だんご』のママ。
服装・声・髪型共にがっちりした男らしい外見だが、言葉遣いはおねえ
♀彩愛(あやめ) 27歳。美人だが気が強い男女。1人でゲイバーにきてしまう残念な常連客
♂仁(じん) 33歳。最近店に顔を出すようになったヘタリーマン(彩愛命名)。基本的に弄られキャラ
●あらすじ
とあるゲイバーで繰り広げられるとりとめのない酔っ払いのたわごと劇。
●役表
♂ママ :
♀彩愛 :
♂仁 :
所要時間:15分
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ママ:ありがとうございましたー! またいらしてねー!
(客を見送り、入り口からカウンター内に戻ろうとして、テーブル席に突っ伏している彩愛に気付き頭を引っ叩く)
彩愛:いったーーーい!?
ママ:寝るならとっとと家に帰んな。邪魔だよ。
彩愛:邪魔って……他に客いないじゃない!
ママ:(無言で奥のカウンター席を親指で指差す)
彩愛:……あぁ、なんかいるわね。でもあんなん一匹居たところでどうでもいいじゃない。
仁 :第一声から酷い言われようですね……。
ママ:バカ言いなさい。あんなんでもお金落としてくれるなら神様なのよ。
仁 :『あんなん』ていうのは否定してくれないんだ……。
ママ:いいから、あんたは帰るかお酒飲むか、どっちかになさい!
(彩愛に言い捨てながらカウンター内に戻るママ。しぶしぶテーブル席から目の前のカウンター席に座りなおす彩愛)
彩愛:とりビー!
ママ:あんたそればっかりね。
彩愛:いいでしょ! 目覚めの一杯はビールって決めてるの~。
ママ:はいはい。
仁 :はは。とりビーって久しぶりに聞きましたよ。おっさん臭いですね。
(再びカウンターに突っ伏しそうになった彩愛がその言葉を聞いた瞬間、仁を射るように睨む)
彩愛:いま……なんか言った?
仁 :え……?
彩愛:おっさん? うら若き27の乙女捕まえて、言うにことかいておっさん!?
(じりじりと仁に向かって席を詰めていく彩愛)
仁 :いや、あの、言葉の綾というか、間違えたかな…?
彩愛:『間違えたかな…?』で済んだら警察いらないのよ!!
仁 :(彩愛に襟首を捕まれ)ひ……!
ママ:はい、暴力はんたーい。
(ママ、中ジョッキを彩愛のおでこにぶつけて遮り)
彩愛:いたっ! 冷たっ!
仁 :……助かった……。
彩愛:ちょ、ママの方が暴力的じゃない!? しかも私限定!
ママ:当然の扱い。大体、27で乙女とか言う方がおこがましいわ。
彩愛:何言ってるのよ、嫁に行くまでは乙女しょ!? じゃなきゃバージンロード歩けないじゃない!
ママ:はいはい。
仁 :……バージンロード。
彩愛:……おい、人の貞操に興味もってんじゃねーぞ変態。
仁 :エスパー?
彩愛:あーーーん! もぅ! どうして私の周りはこんなへっちょい男しかいないんだかねー! いい男って絶滅したわけ!?
仁 :…というか、ここでそんな話するのもおかしな話だと思うんですけど。
ママ:何よ、あたしの店にケチつける気?
仁 :いや、違いますよ。ただ、そもそも女性を好きな男性は、あまりこの店には来ないんじゃないかなーって。
ママ:そりゃノンケばっか来られても困るしねぇ。
彩愛:この店だけじゃなくて! 最近ヘタリーマンみたいな『男のくせに!』って言いたくなるような男が増えてる気がするの。
仁 :あの……その『ヘタリーマン』呼びは固定なんでしょうか?
彩愛:あん?
仁 :いえ……。
彩愛:チッ……こんなんばっかよ? 言いたいことあるならハッキリ言えっての!
ママ:あんたみたいにガラの悪い女、ヘタレじゃなくても避けるわよ。面倒くさい。
彩愛:失礼ね! こんなにキレイで寂しがりやで? 恋愛ドラマに夢見るようなカワイ~気弱な女の子捕まえて。
ママ:ハッ。
仁 :……プッ。
彩愛:コラヘタレ。何あんたまで笑ってんのよ。
ママ:だから、その発言のどこが気弱だって言うのよ。
彩愛:この姿は仮の姿なの! 本当の私は、か弱い乙女そのもの…。
でも、誰も守ってくれないし、何も言わないのは損するだけでしょ?
だから言いたいことは主張して、強く生きていくしかないじゃない!
ママ:そうシフトチェンジできる時点で気弱じゃないことに気付きなさいよ。
彩愛:えぇ!?
ママ:本当に気弱な子っていうのは、何を言われても自分の意見なんて言えないの。
百歩譲ってあんたのそれが虚勢だとしても、自己主張してる時点で間違いなく気弱ではないわ。
彩愛:ママの言うそれはただの人生の弱者でしょ? 気弱っていうか……あれ? 弱い者っていうのが気弱?
漢字にしてみると確かに… えぇ? ……あ~んもう、とにかくね!
例えば私がこんな態度とっても『仕方ないなー』って包み込んでくれるような、
そういう男がいないことが問題なわけ! わかる!?
ママ:ハッ。
彩愛:ちょっと、さっきから鼻であしらうのヤメてくれる!? 二回目なんだけど!
ママ:じゃあ言うけどね。あんたの言うイイ男ってのは、つまり王子様で、ヒーローでもあるような、イイ男のことでしょう?
残念ながらそういう男は、あんたみたいな女は選ばないわ。
彩愛:なんで!?
ママ:さっきも言ったけど、あんたは自分で思っている以上に強いの。少なくとも周りがそう見るだけの行いをしてる。
彩愛:うっ……。
ママ:あんたが好きになるような男は、基本的に自分の意見に相槌打って、
ニコニコ傍らに寄り添うような健気な子が好きなのよ。それか、著しく外見が優れている子ね。
彩愛:な、なるほど…。
ママ:世間一般的に見たって、日々の疲れを癒してくれるような子が好かれるでしょう?
あんたの内面や真実はどうであれ、とりあえず今、ゲイバーでクダ巻いてるような女は論外中の論外ね!
彩愛:そ、それを言っちゃいますか……。
ママ:あんた好みの男を本気で手に入れたいなら、庇護欲をそそれるようになるか、
相手の望み通りの女を演じきるくらいのしたたかさを身につけなさい?
彩愛:……弱さを人に見せるとか、ムリだもん……。
ママ:じゃー諦めて自分に合う男探しな。
彩愛 くっ……。
仁 :月並みですが、そのままの彩愛さんの方が絶対良いと思いますよ? ムリして演じだって疲れるだけでしょうし……。
彩愛:うるさいわね。わかってるわよ、んなもん! ……じゃあさ、私に合う男ってどんなタイプだと思う?
ママ:そうねぇ……あ、この人なんか良いんじゃない?
彩愛:はぁ!?
仁 :(彩愛の声とほぼ同時に)え"……。
彩愛:なんであんたまでイヤそうな声出してんのよ。
仁 :いや、つい……。
彩愛:ヘタリーマンのくせに、あたしが相手じゃ文句あるって言うわけ!?
仁 :いや…そういうわけでも……(目線をそらす)。
彩愛:はぁ――!?!?
ママ:あっはっは。ヘタリーマンも願い下げだってさ。
彩愛:へぇ言ってくれんじゃない。じゃあんたの好みってのを聞かせなさいよ。
…あ、そもそもここに来るくらいだし…ゲイなら私は願い下げで当たり前か。
仁 :んー……ゲイ、というわけでもないんですが。とりあえず、僕はママみたいな人は好きですよ。
ママ:ホホホ。可愛いこと言うじゃない。
彩愛:そんな見え透いたお世辞はいらないのよ。
仁 :お世辞でもないんですけど。
ママ:オーッホッホッホ。私の魅力がわかるなんて、あんたいい目してんじゃない。
彩愛:腐ってるの間違いでしょ!? ちょっと、どうせならもっといい男にしなさいよ。
こんな肉団子、確かに肌はキレイで顔もそこそこ整ってるけど、絶対長生きしないわよ!?
ママ:太く短くがモットーだからいいのよ。
仁 :そういうおおらかで物怖じしないところが、安心できて良いんですよね。一緒にいて安らぐというか……。
彩愛:安らぐねぇ……。
ママ:ほらご覧なさい。こんな疲れた世の中じゃ、みんな憩いを求めてんのよ。
あんたも『自分が甘えたい』なんて考えは捨てて、包容力全面に押し出してりゃイイ男釣れるんじゃない?
彩愛:ない。絶対釣れない。ひっかかるのは稚魚ばっかりよ。
仁 :稚魚……。彩愛さん基準の稚魚ってどんな人なんでしょう。
彩愛:30歳未満、年収600万未満、親と同居中とか?
仁 :うわぁ……。
ママ:自分棚上げでこの発言、どうかと思うわよね。
彩愛:何言ってるのよ。男だってなんだかんだ言っても容姿で判断するんだから、これくらい言わせろってのよ。
その容姿作るのに、こっちが一体いくらお金かけてると思ってんの!?
仁 :まぁまだ20代ですし、あと数年くらいは夢見ても良いと思いますけどね。
彩愛:だからなんであんたが上から目線なのよ!!!
ママ:もういいわよ、あんたは稚魚片っ端からひっかけて育てりゃいいじゃない。
一匹くらいあんたが望んでるような出世魚がまざってるかもしれないわよ!
仁 :ハハ、うまい。
彩愛:うまくないわよ! そんな気の長いことしてたらあっという間にババァじゃない! もう、もっと真面目に考えてよ!
ママ:そもそも、なんであんたの恋愛や結婚を私たちが真面目に考えなきゃいけないわけ?
彩愛:あー、そういうこと言っていいの?
このまま私が、結婚はおろか彼氏もできずにいたら、毎日毎晩この店にビール一杯で居座るわよ。
辛気臭いムード漂わせて、男女関係なく、幸せそうな客に噛み付いて回るんだから!
ママ:あーやだやだ! 女が腐ると本当タチ悪いわね!
彩愛:まだ腐ってない!!!
仁 :あーもうわかりましたから落ち着いて! …とりあえず彩愛さんは今好きな人とかいないんですか?
彩愛:え? いないわよ。
ママ:枯れてるわねぇ。
彩愛:だから……私が好きになる男には、当然目ざとい誰かがいるって話なの。
ママ:自分の腰が重いだけでしょ。お腹とお尻に肉付け過ぎなんじゃないの?
彩愛:ちょっとセクハラ発言!
ママ:あ~ら残念、私はゲイなのでセクハラじゃありませんオホホホホー。
彩愛:ウッザー!
仁 :では、好きなタイプとかは?
彩愛:そうねぇ。とりあえず30歳以上、年収600万以上、山の手沿線に1人暮らしで職場に女が少ない人!
仁 :最後以外は、さっきの稚魚発言で伺ったのと似たような感じですね。
彩愛:内面的なことを言えば、ワガママ聞いてくれる懐の広い人かな! 男らしい人!
仁 :関係ないですけど、男から見た『男らしい』と、女性から見たそれにはズレがある気がしますね。
彩愛:そうねぇ。まぁ簡単に言えば、今ヘタリーマンが言ったような細かいことを気にしない男。
仁 :さりげなく僕を否定してきますね。
彩愛:万が一にも期待させたら悪いかなーと思って。
ママ:そういうけどね、今あんたが言った条件、クリアしてるわよ? この男。
彩愛:えぇ――!?
ママ:年は…33だっけ? 年収は数千万単位の男所帯なIT系社長。もちろん都内の高級マンションに1人暮らし。
あんたが暴言吐いても、ひろーい心で受け止めてんじゃない。
仁 :あははは。
(なんとも言えない苦い顔をして苦悶する彩愛)
彩愛:なに、私の理想を具現化するとこうなるわけ!?
いやーーーッ!違う違う! 絶対何かが違うから却下!
ママ:何言ってるのよ、あんたの理想通りだって言ってんでしょ! 後から文句つけてんじゃないわよ。
彩愛:やだやだ! だってなんか父性感じ……なくもない、か。
でも顔……もまぁそんな悪くないか。
……あ、あれ? なんかカッコよく見えてきたような気もしなくもない…ような…。
ママ:ほーら、カップル成立じゃない!
仁 :あ、あの……その前に僕の意見は?
彩愛:やだ…なんかほんとにドキドキしてきたかも…。
(彩愛、仁の肩をガシッと掴み)
彩愛:あんた、下の名前は?
仁 :じ、仁ですけど……。
彩愛:仁……私の大好きなマンガの主人公も、その名前だったわ…。
仁 :それは……良かった?
彩愛:でも…。
ママ:でも?
彩愛:私のヒーローはあんたなんかじゃないーーーーーー!!!!!
(言いながら両手で仁の頭を振り回す彩愛)
仁 :よくわからないけど逆切れ怖い!!!!
ママ:……だめだこりゃ。
(場面変わって、彩愛、グラスを両手で握り締めて再び爆睡中)
ママ:ひとしきり騒いで寝るって…どこの赤ん坊よ。
仁 :まぁ今日は週末ですし、仕事のストレスもたまってたんでしょう。
ママ:本当お優しいことで。私的には、今日は変な客が居座るばかりで、商売上がったりだけどね。
仁 :その分僕が飲みますよ。宜しければママもどうぞ。
ママ:あら~男前ね。じゃあお言葉に甘えて…乾杯。
仁 :乾杯。
ママ:しかしあんたもバカよね。さっきの流れでいっそ潔く告白しちゃえば良かったじゃない。
…この店に顔を出すようになったのも、あなたがいるからですよ、って。
仁 :彩愛さんの性格からすると、ストーカー扱いされませんかね? …それに、彼女酔ってたし。
ママ:この娘がシラフでくること自体ほぼ皆無よ。
……本当は仕事で知り合って、一生懸命はつらつと働く貴方の姿に一目惚れしました、なんて…
この手の干物女は、意外とそういうのに弱いと思うけどね。
仁 :いいんですよ。
僕も彼女と同じく、なんとなく居心地の良いこの場所で、とりとめのない話をする時間を楽しんでるんです。
それに、こうしてママと喋っているのも好きですから。
ママ:……はぁ。あんた、悪くない男なのにね。何が悪いって、女の趣味が最悪だわ。いっそ男に目覚めてみたら?
仁 :(軽く笑う)
ママ:ま、店の怨霊にでもなる前に、早いとこ片付けてって頂戴よ。
仁 :頑張ります。
ママ:期待してるわ。
(二人の会話を知ってか知らずか、ニヤニヤしながら眠り続ける彩愛)
END